頸椎椎間板ヘルニア of 脊髄外科ジャーナル



脊髄外科を新たな観点から見直していきたいと考えています



頸椎椎間板ヘルニア

椎体と椎体は椎間板により結合されていますが,椎間板はこんにゃくゼリーのような髄核を麻袋のような線維輪が覆うように構成されています.線維輪が裂けて,中から髄核が脱出してくる病態を椎間板ヘルニアといい,脱出した髄核が脊髄や神経が圧迫して症状を発生します.

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線維輪の破綻は加齢とともに増加しますが,椎間板の内圧は加齢とともに減少します.内圧が高くても線維輪が破綻しなければ椎間板ヘルニアは発生しませんし,逆に線維輪が破綻していても内圧が低ければ椎間板ヘルニアは発生しません.両者の影響が重なる中年に椎間板ヘルニアは好発します.

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椎間板ヘルニアにより神経が圧迫されると,肘を打った時のようなびりびりとした電撃痛が発生します.これを神経根症と言います.脊髄が圧迫されると,上肢ばかりでなく下肢にも痛み痺れが発生し,運動麻痺も発生します.これを脊髄症と言います.頸椎椎間板ヘルニアの場合には,下肢に痙性麻痺が発生することがありますが,この場合,平地では歩けていても階段の昇降時に手すりを必要とすることが出てきます.特に,階段の降りが不安定になりやすいです.

診断は神経症状とともにMRIを参照して行います.たとえば,C5/6椎間板ヘルニア(第5頸椎と第6頸椎の間の椎間板に発生した椎間板ヘルニア)の場合にはC6神経根(第6頸神経が脊髄から出現して脊柱管から出るまでの部分)を圧迫しますが,C6神経根が圧迫されると親指にかけての痛み痺れが発生します.MRIによりC6神経根が圧迫されている所見が得られれば,症状と画像所見が一致して診断が可能になります.

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脱出した当初の椎間板は水分を含んでおり圧力を持っていますが,8割近くの場合には,しばらくすると水分が吸収されて症状が軽減していきます.3カ月経過した後にも症状が持続する場合には,手術が必要となります.頸椎椎間板ヘルニアの手術は前方から脱出した椎間板を除去して,チタン製の固定具を挿入して固定する方法が一般的です.チタン製の固定具は最終的に周囲の骨に結合して固定されます.これを頸椎前方固定術といいますが,脱出した髄核を摘出することにより脊髄や脊髄神経への圧迫を解除するとともに,頸椎が後弯していた場合には,前弯が回復できるように alignment (アライメント:椎骨の配列)を改善する効果も期待できます.しかしながら,固定すると頸椎の動きが若干悪くなります.このことで日常生活に支障がでることは稀ですが,隣接した椎間板に負担がかかりやすくなり将来的に同部位に脊柱管狭窄が発生する可能性があり注意が必要です.

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